建設業の売上はいつ計上?完成基準と進行基準の違いを実務目線で解説
「工事がまだ終わっていないのに、売上を一部計上してください」——税理士からそう言われて、頭の中に「?」が浮かんだことはありませんか。
工事が完成してはじめてお金をもらう、それが当たり前じゃないの?
その違和感はまったく正しい感覚です。実は、建設業の売上をいつ計上するかには「工事完成基準」と「工事進行基準」という2つのルールがあります。そして結論を先にお伝えすると、中小建設業の会社では、ほとんどの場合「工事完成基準」——つまり工事が完成して引渡したときに売上を立てる方法——でまったく問題ありません。
この記事を読むと、以下の3つがわかります。
- 工事完成基準と工事進行基準の違いが、図と具体例でスッと理解できる
- 自分の会社がどちらを使っているか(使うべきか)を判断できる
- 決算をまたぐ工事の売上処理で迷わなくなる
税理士から「工事進行基準」の話が出ても、慌てる必要はありません。この記事を読み終えるころには、次に税理士と話すときに「うちは完成基準ですよね?」と自分から確認できる自信がついているはずです。
まず結論——中小建設業のほとんどは「工事完成基準」でOK
工事完成基準とは?
工事完成基準とは、工事が完成して発注者(施主)に引渡した時点で、はじめて売上(完成工事高)を計上するルールです。
前職で「商品を出荷したとき」「検収が完了したとき」に売上を立てていた経験がある方は、それと同じ感覚です。建設業では「商品の出荷」が「工事の引渡し」に置き換わるだけ、と考えるとイメージしやすいのではないでしょうか。
工事のタイムラインで示すと、以下のようになります。
受注 → 施工中(売上は立てない) → 完成・引渡し【ここで売上計上】→ 入金
施工中はどれだけ工事が進んでいても売上はゼロ。完成して引き渡した瞬間に、請負金額の全額を「完成工事高」として計上します。
工事進行基準とは?
工事進行基準とは、工事の進み具合(進捗度)に応じて、完成を待たずに段階的に売上を計上するルールです。
たとえば工期2年・請負金額10億円の工事で、1年目の時点で工事全体の40%が完了していれば、1年目に4億円を売上として計上します。
受注 → 1年目(40%完了→4億円計上)→ 2年目(100%完了→残り6億円計上)→ 入金
「工事が終わっていないのに売上を立てるのはおかしくない?」と感じるかもしれませんが、これは架空計上ではありません。発生した原価や工事の実態にもとづいて「ここまでは確実にできあがっている」と見積もったうえで計上するものです。国が認めた正式な会計処理の方法ですので、ルールに沿って行えば粉飾には当たりません。
2つの基準を並べた比較表
| 項目 | 工事完成基準 | 工事進行基準 |
|---|---|---|
| 売上計上のタイミング | 工事が完成・引渡しされた時点で全額計上 | 工事の進捗に応じて段階的に計上 |
| 採用する会社の規模感 | 中小建設業の大半 | 大手ゼネコン・上場企業が中心 |
| 向いている工事 | 工期が短い工事(1〜6ヶ月程度) | 工期が長い大規模工事(年単位) |
| 経理処理の難易度 | シンプル(完成したら計上するだけ) | 高い(進捗度の計算・現場との連携が必要) |
| 税務上の扱い | 原則自由に選択可能 | 一定条件で強制適用あり |
実務では、工期1〜3ヶ月・請負金額が数百万〜数千万円の工事を中心に手がけている中小建設業であれば、ほぼ間違いなく工事完成基準を採用しています。「うちの会社はどっちだろう?」と迷っている方は、「工事完成基準」だと思ってまず間違いありません。
新収益認識基準が変えたこと・変えなかったこと
「工事完成基準・工事進行基準という言葉はもう使わないの?」——ネットで調べていると、そんな情報を見かけて不安になった方もいるかもしれません。ここで整理しておきましょう。
旧用語と新用語の対応表
2021年4月から大企業に強制適用された「収益認識に関する会計基準」により、正式な会計用語としては名前が変わりました。
| 従来の言葉(今でも実務で使われる) | 新しい会計基準の言葉 | かみ砕いた意味 |
|---|---|---|
| 工事完成基準 | 一時点において充足される履行義務 | 工事が完成・引渡しされた瞬間に売上を立てるルール |
| 工事進行基準 | 一定の期間にわたって充足される履行義務 | 工事が終わる前から段階的に売上を立てるルール |
言葉は変わりましたが、処理の中身は変わっていません。「名前が新しくなっただけで、やっていることは同じ」と理解してください。
なお、本記事ではこの対応表以降、読みやすさを優先して従来どおり「工事完成基準」「工事進行基準」という言葉を使います。
中小建設業には強制適用されない
新しい収益認識基準が強制適用されるのは、上場企業や大会社(資本金5億円以上など)だけです。
中小建設業に適用されるのは「中小企業の会計に関する指針」であり、こちらでは従来どおりの処理がそのまま認められています。つまり:
- 「完成工事高」「未成工事支出金」「完成工事未収入金」という勘定科目名はそのまま使える
- 売上計上の方法(工事完成基準)を変更する必要はない
- 会計ソフトの設定変更も不要
顧問税理士から「収益認識基準に対応した処理をしましょう」と言われた場合、それは主に上場企業や大会社向けの話であるケースがほとんどです。まず「うちは中小企業ですが、工事完成基準のままで問題ありませんか?」と確認するのが最初のステップです。
「工事進行基準」が義務になるケースはある
「中小建設業は工事完成基準でOK」とお伝えしましたが、例外があります。税法上、一定の条件を満たす大規模な工事には、工事進行基準が強制適用されます。
長期大規模工事の条件
法人税法では「長期大規模工事」に該当する場合、会社の規模に関係なく工事進行基準を適用しなければなりません。
その条件は以下のとおりです。
- 工期:1年以上(着手日から引渡し期日まで)
- 請負金額:10億円以上
上記の両方の条件を同時に満たす工事が対象です。(根拠:法人税法第64条第1項、法人税法施行令第129条第1項)
「うちは当てはまる?」2軸チェック表
| 請負金額が10億円未満 | 請負金額が10億円以上 | |
|---|---|---|
| 工期が1年未満 | 工事完成基準でOK | 工事完成基準でOK |
| 工期が1年以上 | 工事完成基準でOK | 工事進行基準が強制適用 |
実務では、工期1〜3ヶ月・請負金額数百万〜数千万円が中心の中小建設業の場合、この表の左上に収まります。つまり「長期大規模工事」に当てはまることは、まずありません。
「もし将来、工期が長くて金額も大きい工事を受注する可能性があるなら、その時点で顧問税理士に相談すれば十分です」——これが実務的な対応です。
決算をまたぐ工事、どう処理する?
決算日の時点で完成していない工事がある——建設業の経理担当者なら、毎年必ず直面する状況です。この場合の処理はとてもシンプルです。
完成基準の場合——未成工事支出金のまま繰り越すだけでOK
工事完成基準を採用している場合、期末時点で完成していない工事は、売上を計上しません。
- 工事にかかった費用(材料費・外注費・人件費など)は「未成工事支出金」としてそのまま翌期に繰り越す
- 完成工事高(売上)は計上しない
- 「期末に未完成の工事があるけど、無理に売上を立てなくていいの?」→ はい、立てなくて正しいです
これが工事完成基準の正しい処理です。決算前に確認すべきことは、「期末時点で本当に完成・引渡しが終わっている工事はどれか」を現場に確認すること。それだけです。
進行基準の場合(参考情報)
工事進行基準を採用している場合は、期末時点の進捗度(原価比例法:発生原価 / 見積原価総額)を計算し、当期分の完成工事高を計上します。
この処理には現場監督との連携が必要であり、「事務担当者だけで完結するのは難しい」というのが実態です。ただし、前述のとおり中小建設業でこの処理が必要になるケースはほとんどありませんので、参考情報として頭に入れておく程度で十分です。
あわせて読みたい
決算をまたぐ工事で「未成工事支出金のまま繰り越す」という処理が出てきましたが、そもそも未成工事支出金とは何を入れる科目なのか、材料費・外注費・人件費をどう仕訳するのかを詳しく解説した記事があります。
「決算で繰り越すのはわかった。でも日々の積み上げ方がまだ不安」という方は、こちらも合わせてご覧ください。

「工事が完成した」を判定する3点チェック
「工事完成基準 = 引渡し時に計上する」はわかった。でも「引渡し」って具体的にいつ?——次に浮かぶ疑問はこれではないでしょうか。
3点確認(引渡し書類・竣工検査・請求書)
実務では、以下の3点が揃った日を「完成・引渡し日」として売上計上のタイミングとします。
- 引渡し確認書(引渡書・受領書)の受領:施主から「確かに受け取りました」という書面をもらっている
- 竣工検査の合格:施主による竣工検査(完成確認)に合格し、施主のサインをもらっている
- 請求書の発行:引渡し日と整合する日付で請求書を発行している
この3点が揃えば、「完成した」と判定して問題ありません。
引渡し日と請求書発行日がズレた場合
現場では「工事は12月25日に引き渡したけれど、請求書は年明け1月5日に発行した」ということが起こりえます。
この場合、原則として売上計上日は「引渡し完了日」(=権利が施主に移ったと認められる日)です。請求書の発行が数日遅れても、引渡しが完了していればその時点で売上を認識します。
ただし、決算期をまたぐケース(例:3月決算で3月31日に引渡し、請求書は4月1日発行)では判断が微妙になります。このような場合は、必ず顧問税理士の指示に従ってください。
完成工事高・未成工事支出金・完成工事未収入金——3科目が「同時に動く」瞬間
ここまで読んできて、「完成工事高」「未成工事支出金」「完成工事未収入金」という科目が何度も出てきたことに気づいたのではないでしょうか。実は、工事完成基準では引渡しの瞬間に、この3つの科目が一斉に動きます。
工事ライフサイクルのタイムライン図
【受注時】
└→ 着手金を受領 → 前受金(未成工事受入金)として計上
【施工中】
└→ 材料費・外注費・人件費が発生するたびに「未成工事支出金」に積み上げ
└→ まだ売上は立てない
【完成・引渡し時】★ここで3科目が同時に動く
└→ ①「完成工事高」(売上)を計上
└→ ②「未成工事支出金」→「完成工事原価」に振り替え
└→ ③「完成工事未収入金」(まだ入金されていない分の債権)を計上
【入金時】
└→ 「完成工事未収入金」を消し込み(入金で解消)
引渡し時の仕訳(具体例)
以下の条件で引渡しが完了した場合を見てみましょう。
- 請負金額:800万円
- 工事原価(未成工事支出金の累計):500万円
- 着手金(前受金として受領済み):200万円
引渡し時の仕訳:
| 借方 | 金額 | 貸方 | 金額 |
|---|---|---|---|
| 完成工事未収入金 | 600万円 | 完成工事高 | 800万円 |
| 未成工事受入金 | 200万円 | ||
| 完成工事原価 | 500万円 | 未成工事支出金 | 500万 |


よくある質問(Q&A)
Q1:途中で売上を立てると架空計上・粉飾決算にならないの?
A. なりません。工事進行基準は国が認めた正式な会計処理の方法です。「架空」というのは根拠なく数字を作ることですが、進行基準では「発生した工事原価」という客観的な事実にもとづいて進捗を見積もり、その分だけ売上を計上します。ルールに沿った処理であれば、粉飾には当たりません。
ただし、進捗度を実態より過大に見積もって売上を水増しすれば、それは当然問題になります。中小建設業で工事進行基準を採用する場面は限られますが、もし税理士から指示があった場合は「進捗の見積もり根拠」を明確にしておくことが大切です。
Q2:工事完成基準と工事進行基準は自由に切り替えられますか?
A. 原則として、一度採用した基準を毎期コロコロ変えることはできません。会計の基本的な考え方として「継続性の原則」(同じ処理方法を毎期続けるべきというルール)があり、正当な理由なく処理方法を変更すると、期間ごとの業績の比較ができなくなってしまいます。
中小建設業の場合、工事完成基準を継続使用するのが一般的です。税法上の強制適用条件(長期大規模工事)に当てはまらない限り、完成基準から進行基準に変更する必要はありません。もし変更を検討する場合は、必ず顧問税理士に相談してください。
Q3:進行基準で計上した売上は、入金があったらどんな仕訳になりますか?
A. 進行基準で売上を計上した時点では、相手科目として「完成工事未収入金」(または契約資産)が計上されます。その後、実際に入金があったときに以下のように消し込みます。
| 借方 | 貸方 |
|---|---|
| 普通預金(入金額) | 完成工事未収入金(入金額) |
つまり「売上計上 → 完成工事未収入金が発生 → 入金で消える」という流れは、完成基準の場合と同じです。違いは「その売上をいつ計上するか(完成時か途中か)」だけです。
Q4:経営事項審査の前に、売上計上基準を見直す必要はありますか?
A. 経営事項審査(経審)では財務諸表の正確性が問われます。「見直す」というよりも、「正しく運用できているかを確認する」ことが大切です。
具体的には、以下の2点をチェックしてください。
- 引渡し前の工事を「完成工事高」に計上していないか(完成基準なら、未完成工事の売上計上はNG)
- 「未成工事支出金」が正しく管理されているか(工事ごとに原価が紐づいているか)
経審の審査で計上基準そのものを細かく確認されるケースは多くありませんが、計上ミスがあると完成工事高の金額がズレ、結果として経審の点数に影響する可能性があります。決算前に一度確認しておくと安心です。
顧問税理士に確認すべき3つのポイント
この記事を読んで概要が理解できたら、次のステップとして顧問税理士に以下の3点を確認してみてください。「何を聞けばいいかわからない」という状況から一歩前進できます。
確認ポイント①
「当社は工事完成基準と工事進行基準のどちらで処理していますか?改めて確認させてください」
確認ポイント②
「決算をまたぐ工事がある場合、期末の処理手順を改めて教えてください。未成工事支出金のまま繰り越すだけで合っていますか?」
確認ポイント③
「今後、工期が長く金額も大きい工事を受注した場合、工事進行基準の対象になる可能性はありますか?事前に相談すべきタイミングがあれば教えてください」
この3つの質問を投げかけるだけで、「先生に言われた通りにやっている」状態から「自分で理解して確認できる」状態に変わります。
まとめ
この記事のポイントを振り返ります。
- 中小建設業のほとんどは「工事完成基準」を採用している。工事が完成して引き渡した時点で売上を計上する方法で、特別な事情がなければこのままで問題ない
- 工事進行基準は大規模・長期の工事向け。税法上の強制適用条件(工期1年以上かつ請負金額10億円以上)を満たす場合にのみ義務となる
- 新収益認識基準は中小建設業には強制適用されない。用語は変わったが処理の実態は変わっていないので安心してよい
- 「工事が完成した」の判定は3点チェック(引渡し書類・竣工検査・請求書)で確認できる
- 引渡しの瞬間に、完成工事高・完成工事原価・完成工事未収入金が同時に動く。シリーズで学んだ科目がここでつながる
「税理士から言われた言葉の意味がわからなかった」「ネットで調べたら余計に混乱した」——そこから「自分で確認できる」状態になったこと自体が、大きな一歩です。完成基準と進行基準の違いがわかっていれば、これからの決算業務で迷う場面はぐっと減るはずです。
この記事を読んで「科目のつながり」が気になった方へ
完成工事高・未成工事支出金・完成工事未収入金・未成工事受入金——この記事では「いつ動くか」を解説しましたが、「それぞれの科目がそもそも何を意味しているか」を4つまとめて整理したい方には、こちらの記事が役立ちます。

※ この記事は2026年4月時点の情報にもとづいて作成しています。法令・制度は改正される場合がありますので、具体的な処理については必ず顧問税理士にご確認ください。記事の内容は一般的な解説を目的としたものであり、個別の税務判断を保証するものではありません。
