建設業の特殊勘定科目4つを図解で一気に整理する
完成工事高・完成工事未収入金・未成工事支出金・未成工事受入金――1つ1つは調べればわかる。でも、「この4つがどうつながっているか説明して」と言われたら、急に言葉に詰まる。そんな経験はないでしょうか。
検索しても出てくるのは1科目ずつの解説ばかりで、4つの関係をまとめて整理してくれる記事がなかなか見つからない。その”モヤモヤ”、この記事で工事の流れに沿って一気に解消します。
まず全体像をつかもう――4科目は「1本の工事の流れ」で動いている
4つの科目をバラバラに覚えようとすると混乱します。大切なのは、4科目はすべて「1つの工事が始まってから終わるまでの流れ」の中で登場するということです。まずは全体の地図を手に入れてから、それぞれの詳細を確認していきましょう。
【早見表】4科目と財務諸表の関係
「この科目は貸借対照表(B/S)?損益計算書(P/L)?」と迷ったとき、この表を見れば一目でわかります。
| 科目名 | 財務諸表 | 区分 | 一般会計での近い言葉 |
|---|---|---|---|
| 完成工事高 | 損益計算書(P/L) | 収益(売上) | 売上高 |
| 完成工事未収入金 | 貸借対照表(B/S) | 流動資産 | 売掛金 |
| 未成工事支出金 | 貸借対照表(B/S) | 流動資産 | 仕掛品 |
| 未成工事受入金 | 貸借対照表(B/S) | 流動負債 | 前受金 |
覚え方のコツ: 4科目のうち損益計算書に出るのは「完成工事高」だけ。残りの3つはすべて貸借対照表です。「P/Lに出るのは1つだけ」と覚えておくと迷いにくくなります。
【連動図】工事ライフサイクルと4科目の動き方
1つの工事が「受注→着手金→工事中→完成・引渡し→入金」と進んでいく中で、4科目がどのタイミングで登場するかを見てみましょう。
【工事の流れと4科目の動き】
(1) 受注
↓
(2) 着手金を受け取る
→ 未成工事受入金(負債)が発生
↓
(3) 工事が進む(材料費・外注費などを投入)
→ 未成工事支出金(資産)が増えていく
↓
(4) 工事完成・引渡し ★ ここが4科目が一斉に動く山場
→ 完成工事高(売上)を計上
→ 未成工事支出金 → 完成工事原価へ振替(資産が費用に変わる)
→ 未成工事受入金 → 取り崩し(負債が消える)
→ 完成工事未収入金(資産)が発生(残代金の未回収分)
↓
(5) 残代金が入金される
→ 完成工事未収入金が消える(入金消込)
この流れをイメージできれば、4科目の関係はほぼ掴めたも同然です。「着手金をもらう→お金を使う→完成して売上が立つ→残りのお金を回収する」という、工事のお金の動きそのものが4科目の正体です。
一般会計の言葉に置き換えると理解が速い
他業種で経理をしていた方なら、次の置き換えが一番わかりやすいはずです。
| 建設業の科目 | 一般会計の言葉 | ひとこと説明 |
|---|---|---|
| 完成工事高 | 売上高 | 工事を引渡して計上する売上 |
| 完成工事未収入金 | 売掛金 | 引渡したけどまだもらっていないお金 |
| 未成工事支出金 | 仕掛品(製造業) | まだ完成していない工事にかかった費用の置き場 |
| 未成工事受入金 | 前受金 | まだ工事が終わっていないのに先にもらったお金 |
「名前が違うだけで、やっていることは同じ」――この感覚が持てれば、建設業の勘定科目への苦手意識はかなり和らぐのではないでしょうか。
4科目をひとつずつ確認する
全体像を掴んだところで、各科目のポイントを簡潔に確認していきましょう。ここでは「位置づけ」の整理に集中し、詳しい仕訳や実務の深掘りは関連記事に委ねます。
完成工事高(P/L・売上)――工事を引渡した時点で計上する
完成工事高(かんせいこうじだか)は、建設業における「売上高」です。
工事が完成して施主(発注者)に引渡した時点で計上します。「請求書を出した日」でも「お金が入金された日」でもなく、「引渡した日」が基準という点が重要です。
実務では、引渡確認書への署名日や竣工検査の合格通知日を完成日として処理するのが一般的です。
中小建設業では「工事が完成して引渡したときに売上を一括計上する方法」(いわゆる工事完成基準)が標準です。工事の途中で売上を段階的に計上する方法(工事進行基準)は主に大企業で使われるため、本記事では完成基準を前提に解説しています。

完成工事未収入金(B/S・資産)――完成済みなのにまだもらえていないお金
完成工事未収入金(かんせいこうじみしゅうにゅうきん)は、建設業における「売掛金」です。
工事が完成して引渡した後、まだ代金を受け取っていない金額がここに計上されます。入金されると消込(けしこみ)処理をして残高がゼロになります。
管理のポイントは「工事番号ごと」に残高を追いかけること。同じ発注者から複数の工事を受注していても、工事単位で管理しないと入金消込で混乱します。
完成工事未収入金の詳しい解説(売掛金との違い・仕訳・経審への影響)は、下記の記事でも紹介しています

未成工事支出金(B/S・資産)――進行中の工事に使ったお金の一時置き場
未成工事支出金(みせいこうじししゅつきん)は、建設業における「仕掛品」です。
まだ完成していない工事にかかった費用(材料費・労務費・外注費・経費)を、完成するまで資産として積み上げておく科目です。工事が完成・引渡しになると、積み上げた金額をまとめて「完成工事原価(費用)」に振り替えます。
「費用が発生したのに、費用科目ではなく資産に入れるの?」と思うかもしれませんが、これは「まだ完成していない工事の費用を、完成前に損益に反映させるのは正しくない」という考え方に基づいています。
未成工事支出金の計上タイミング・仕訳例・原価区分の詳細は、下記の記事で詳しくまとめています。

未成工事受入金(B/S・負債)――先にもらった着手金は「まだ義務を果たしていない」から負債
未成工事受入金(みせいこうじうけいれきん)は、建設業における「前受金」です。
工事が完成する前に発注者からもらった着手金・中間金(ちゅうかんきん:工事途中で受け取る代金の一部)を計上する科目です。
「お金をもらったのに負債?」と最初は違和感があるかもしれません。しかし、まだ工事が完成していない段階でもらったお金は、「工事を完成させる義務」とセットです。もし工事が中止になれば返還しなければなりません。だから「受け取ったお金=まだ果たしていない義務=負債」という扱いになるのです。
工事が完成・引渡しになると、この負債は取り崩されて完成工事高(売上)に振り替わります。
4科目が一斉に動く場面――工事完成・引渡し時の処理
工事の流れの中で、4科目が最も劇的に動くのが「工事完成・引渡し」のタイミングです。ここを理解すると、4科目の連動がはっきり見えてきます。
工事完成時に起きる4科目の動き(振替仕訳の流れ)
工事が完成して引渡した瞬間に起きることを整理すると、次のようになります。
- 未成工事支出金(資産)→ 完成工事原価(費用)に振替:工事中に積み上げてきた費用を、まとめて費用計上する
- 完成工事高(売上)を計上:請負金額を売上として計上する
- 未成工事受入金(負債)→ 取り崩し:着手金として受け取っていた前受金を消す
- 完成工事未収入金(資産)が発生:請負金額から着手金を差し引いた残額が、未回収の債権として残る
着手金(前受金)があった場合とない場合で何が変わるか
具体的な金額で仕訳を確認しましょう。請負金額1,000万円、工事原価700万円の工事を例にします。
パターンA:着手金なし(全額が完成後の請求)
工事完成・引渡し時:
(借方)完成工事原価 7,000,000円
(貸方)未成工事支出金 7,000,000円
(借方)完成工事未収入金 10,000,000円
(貸方)完成工事高 10,000,000円
代金入金時:
(借方)普通預金 10,000,000円
(貸方)完成工事未収入金 10,000,000円
パターンB:着手金300万円を受け取っていた場合
着手金受取時(工事着工前):
(借方)普通預金 3,000,000円
(貸方)未成工事受入金 3,000,000円
工事完成・引渡し時:
(借方)完成工事原価 7,000,000円
(貸方)未成工事支出金 7,000,000円
(借方)未成工事受入金 3,000,000円
(借方)完成工事未収入金 7,000,000円
(貸方)完成工事高 10,000,000円
残代金700万円の入金時:
(借方)普通預金 7,000,000円
(貸方)完成工事未収入金 7,000,000円
パターンBでは、着手金300万円分だけ未成工事受入金(負債)が減り、その分完成工事未収入金(資産)が少なくなるのがポイントです。完成工事高(売上)は着手金の有無にかかわらず1,000万円で同じです。
決算をまたぐ工事がある場合の月末処理の考え方
中小建設業では常に複数の工事が進行中です。決算日時点でまだ完成していない工事がある場合、その工事について覚えておくべきことはシンプルです。
- 未成工事支出金:発生済みの原価はそのまま資産として貸借対照表に残す(費用に振り替えない)
- 未成工事受入金:受け取った着手金・中間金はそのまま負債として残す(売上に振り替えない)
- 完成工事高・完成工事未収入金:この工事についてはまだ計上しない(完成していないため)
つまり、決算をまたぐ工事は「途中経過のまま」で決算を迎えます。完成工事原価への振替も、完成工事高の計上も、すべて引渡しが完了する期に行うのが原則です。
実務では、決算前に「どの工事が今期中に完成するか・しないか」を現場担当者に確認し、一覧表を作っておくと処理の漏れを防げます。
「なぜ建設業だけ名前が違うのか」――制度的な理由を押さえておこう
「中身が売掛金や仕掛品と同じなら、なぜわざわざ別の名前を使うの?」という疑問は、建設業経理を始めた方なら誰でも感じるものです。ここにはきちんとした制度的な理由があります。
建設業財務諸表(建設業法)と一般会計(税務申告書)の2種類がある理由
建設業を営む会社は、2種類の財務諸表を使い分ける場面があります。
| 書類 | 根拠法令 | 使う場面 | 科目名の例 |
|---|---|---|---|
| 建設業財務諸表 | 建設業法施行規則 | 建設業許可の更新・経営事項審査(経審) | 完成工事高・完成工事未収入金など |
| 一般の財務諸表 | 企業会計原則・法人税法 | 税務申告・銀行融資 | 売上高・売掛金など |
建設業法施行規則で「建設業の貸借対照表・損益計算書はこの様式で作りなさい」と定められており、その様式の中に「完成工事高」「完成工事未収入金」「未成工事支出金」「未成工事受入金」という科目名が指定されています。
つまり、「法律でそう決まっているから」というのが名前が違う根本的な理由です。建設業許可の申請や経審では、この建設業専用の科目名を使った財務諸表を提出しなければなりません。
新収益認識基準(大企業)で科目名が変わっても、中小建設業は従来の科目名のままでOK
2021年4月以降、上場企業や大企業では「収益認識に関する会計基準」(新収益認識基準)が強制適用され、一部の科目名が変更になりました。
| 従来の科目名(中小建設業で継続使用) | 新基準の科目名(大企業) |
|---|---|
| 完成工事未収入金 | 顧客との契約から生じた債権(条件付きの場合は契約資産) |
| 未成工事支出金 | 直接対応する科目なし(棚卸資産または契約資産として計上されるケースがある) |
| 未成工事受入金 | 契約負債 |
「うちの会社も変えないといけないの?」と不安に感じた方もいるかもしれません。
結論:中小建設業では、科目名は変わりません。安心してください。
中小企業には「中小企業の会計に関する指針」が適用されるため、新収益認識基準は強制適用されません。従来どおり「完成工事高・完成工事未収入金・未成工事支出金・未成工事受入金」を使い続けて問題ありません。
顧問税理士や銀行の担当者から「契約資産」「契約負債」という言葉が出てきた場合は、「大企業向けの新基準の用語であり、中小企業には適用されない」と理解しておけば大丈夫です。
経営事項審査(経審)と4科目のつながり
経営事項審査(経審:けいしん)は、公共工事を受注するために必要な会社の経営状態の審査です。経審では建設業財務諸表を提出するため、4科目が正しく計上されているかが直接的に審査結果に影響します。
特に注意したいのは、完成工事高の計上時期です。経審の審査基準日(決算日)の前後で工事が完成するかどうかによって、当期の完成工事高が変わります。完成工事高は経審の点数に直結する要素のため、期末前後の工事完成タイミングは意識しておく必要があります。
よくある質問(Q&A)
ここまで読んで「だいたいわかった」という方も、実務で具体的に迷いやすいポイントを確認しておきましょう。
Q1. 完成工事高と完成工事未収入金は、同じ工事で同時に出てくるの?
A. はい、工事完成・引渡し時に同時に計上されます。
工事を引渡した時点で「完成工事高(売上)」を計上し、まだ代金を受け取っていない分を「完成工事未収入金(資産)」として計上します。着手金を受け取っていた場合は、着手金を差し引いた残額が完成工事未収入金になります。
代金が全額前払いで受領済みの場合は、完成工事未収入金は発生しません(未成工事受入金を取り崩して完成工事高を計上するだけになります)。
Q2. 未成工事支出金と未成工事受入金は名前が似すぎて混乱する。簡単な区別の仕方は?
A. 「支出金=出したお金(資産)」「受入金=もらったお金(負債)」で区別できます。
- 未成工事支出金:「支出」=会社がお金を出した → 工事にかけた費用の置き場 → 資産
- 未成工事受入金:「受入」=会社がお金をもらった → まだ工事が終わっていない前受金 → 負債
「支出=出す=資産」「受入=もらう=負債」と覚えておくとシンプルです。「もらったのに負債?」と思うかもしれませんが、「工事を完成させる義務がまだ残っているから」負債になるのです。
Q3. 試算表を見たとき、4科目はどの欄に出てくる?(B/S・P/Lどちらか迷う)
A. 損益計算書(P/L)に出るのは「完成工事高」だけ。残り3つはすべて貸借対照表(B/S)です。
試算表での位置をまとめます。
| 科目 | 試算表での位置 |
|---|---|
| 完成工事高 | 貸方(収益の欄) → P/L |
| 完成工事未収入金 | 借方(資産の欄) → B/S流動資産 |
| 未成工事支出金 | 借方(資産の欄) → B/S流動資産 |
| 未成工事受入金 | 貸方(負債の欄) → B/S流動負債 |
「完成工事高だけがP/L、あとは全部B/S」と覚えておけば、試算表を見たときに迷わなくなります。
Q4. 決算のとき、未成工事支出金を振り替えるタイミングはいつ?
A. 工事が完成して施主に引渡した時点で振り替えます。決算日に自動的に振り替わるわけではありません。
中小建設業の標準的な処理では、未成工事支出金は工事完成・引渡し時に「完成工事原価(費用)」へ振り替えます。「決算だから」「7割完成しているから」という理由で途中振替は行いません。
決算日時点で未完成の工事があれば、その工事の未成工事支出金はそのまま資産として貸借対照表に残します。翌期以降、引渡しが完了した時点で費用へ振り替えます。
決算前に必ずやっておくべきことは、全工事の完成状況を現場担当者に確認すること。「今期中に引渡しが完了した工事」のリストを作り、その工事だけ振替仕訳を入れるのが正しい手順です。
月次処理で4科目を正しく管理するチェックリスト(まとめ)
最後に、毎月の処理で4科目を正しく管理するためのチェックリストを整理します。印刷して手元に置いておくと、月次確認の際に便利です。
- [ ] 完成工事高:今月完成・引渡しした工事がすべて売上計上されているか
- [ ] 完成工事未収入金:完成済み工事で未入金の残高が正しいか(入金消込の漏れがないか)
- [ ] 未成工事支出金:進行中の各工事の原価が正しい工事番号で計上されているか(工事台帳との突合)
- [ ] 未成工事受入金:着手金・中間金を受け取ったが未完成の工事の前受金が正しく残っているか
- [ ] 残高の突合:会計ソフトの各科目残高と、工事台帳(原価管理表)の数字が一致しているか
4科目を一度に整理するのは大変に感じるかもしれませんが、実は「1つの工事の流れ」を追いかけているだけです。工事が始まって、お金を使って、完成して、代金をもらう――その一連の動きを勘定科目で記録しているに過ぎません。
この記事で「4科目のつながり」が見えてきたなら、あとは日々の実務の中で少しずつ慣れていくだけです。後輩から「建設業の勘定科目って変わってるよね?」と聞かれたとき、冒頭の早見表と連動図を見せながら説明してみてください。きっと「わかりやすい」と言ってもらえるはずです。

本記事は2026年4月時点の情報をもとに作成しています。法令・制度の改正により内容が変わる場合があります。個別の処理方法については、顧問税理士・建設業経理士にご確認ください。
