未成工事支出金とは?計上タイミング・仕訳・完成工事原価への振替まで図解で解説
「仕掛品って前の会社で使っていたのに、建設会社に来たら『未成工事支出金』という見慣れない言葉が出てきた——同じものなの?それとも全然違うの?」
その疑問、ちゃんと答えます。
会計ソフトの入力画面で「未成工事支出金」を目にして手が止まった経験、ありませんか。材料費や外注費でそのまま処理してきたけど「これで正しいのかな」と不安になっている方も多いはずです。建設業の勘定科目は独特で、最初は誰でも混乱します。この記事では、仕掛品との対比を使いながら、計上タイミング・仕訳・完成工事原価への振替までを一本で解説します。
「仕掛品と同じもの?」——その疑問、正解です(そして少し違います)
一言でいうと「建設業専用の仕掛品」
結論から言います。
未成工事支出金=建設業における仕掛品です。
製造業で「仕掛品」として管理していた「まだ完成していない製品にかかった費用」を、建設業では「未成工事支出金」という科目名で管理します。仕掛品を使ったことがある方なら、発想は全く同じです。「工事が終わっていないうちは資産として積み上げておき、完成したら費用に振り替える」——この考え方は製造業も建設業も変わりません。
だから「仕掛品と同じものかな?」という直感は正しいのです。
ただし、名前だけでなく少し違う点もあります。次の3つのポイントを押さえると、スッキリ理解できます。
名前だけじゃない3つのポイント
ポイント①:「工事ごと」に管理する
仕掛品は製品種別・ロット別に管理しますが、未成工事支出金は工事(プロジェクト)ごとに管理します。「A邸外壁塗装工事」「B社倉庫新築工事」のように、工事1件1件を追いかけるのが建設業会計の基本です。これが「工事別原価管理」という考え方で、複数の工事を同時に抱える中小建設業では特に重要です。
ポイント②:「完成引渡し」が振替のタイミング
製造業の仕掛品は「製品が完成した時点」で製品勘定に振り替えますが、未成工事支出金は「工事が完成して施主に引渡した時点」で「完成工事原価(費用)」に振り替えます。引渡しの前後で処理が変わるため、「いつ引渡したか」の確認が実務上のキーポイントになります。
ポイント③:「外注費」が大きな割合を占める
製造業の仕掛品には材料費・労務費・製造間接費が含まれますが、建設業では外注費(下請け業者への支払い)が原価の大部分を占めるケースが少なくありません。外注費の管理と請求書の突合が、未成工事支出金管理の実務上の中心作業になります。
【比較表】仕掛品 vs 未成工事支出金
| 比較項目 | 仕掛品(製造業) | 未成工事支出金(建設業) |
|---|---|---|
| 使う業種 | 製造業・一般事業 | 建設業 |
| 貸借対照表上の分類 | 流動資産 | 流動資産 |
| 管理単位 | 製品種別・ロット | 工事(プロジェクト)ごと |
| 含まれる費用 | 材料費・労務費・製造間接費 | 材料費・労務費・外注費・経費 |
| 費用への振替タイミング | 製品完成時 | 工事完成・引渡し時 |
| 振替先 | 製品原価 → 売上原価 | 完成工事原価(費用) |
| 売上の計上 | 製品を販売したとき | 工事を引渡したとき |
この表を見れば、「仕掛品と同じ発想で、建設業の名前になったもの」という理解が深まるはずです。
未成工事支出金に含まれるものは何か
4つの原価区分(材料費・労務費・外注費・経費)
未成工事支出金に積み上げる費用は、建設業会計では以下の4つの原価区分で管理します。
| 原価区分 | 主な内容 |
|---|---|
| 材料費 | 建設資材(コンクリート・鉄筋・木材・塗料など)、現場消耗品 |
| 労務費 | 直接工事に携わる自社従業員の賃金・手当・法定福利費 |
| 外注費 | 下請け業者・一人親方への支払い(最も金額が大きくなることが多い) |
| 経費 | 現場の水道光熱費・重機のレンタル料・現場移動費・保険料など |
製造業の方には「4区分のうち『外注費』が独立している点」が新鮮に映るかもしれません。建設業では丸投げや分離発注が一般的なため、外注費を独立した区分で管理するのが建設業会計の特徴です。
間接原価(共通仮設費)の按分の考え方
複数の工事を同時に進めているとき、必ず出てくる疑問が「この費用はどの工事に入れればいいの?」です。
たとえば:
- 現場事務所の家賃(A工事・B工事・C工事の3現場が使っている)
- 重機(バックホウ)の燃料費(工事をまたいで使用した)
- 安全管理費・共通の足場代
こうした複数工事に共通して発生する間接原価を、建設業では「共通仮設費」とも呼びます。これを各工事の未成工事支出金に振り分けるには「按分(あんぶん)」という考え方を使います。
実務でよく使われる按分方法は以下の3つです:
| 按分方法 | 内容 | 向いているケース |
|---|---|---|
| 工期按分 | 各工事の工期(日数)の比率で配分 | 事務所賃料・固定費的な経費 |
| 面積按分 | 各工事の施工面積の比率で配分 | 足場・養生材など |
| 請負金額按分 | 各工事の請負金額の比率で配分 | 一般管理費の配賦 |
実務上の割り切り方: 中小建設業では「完璧な按分より継続的な処理ルールの一貫性」が重要です。どの方法を選ぶかより、「毎期同じルールで処理する」ことが税務上も求められます。最初の期の選択を顧問税理士に相談しておくと安心です。
「これは入れていいの?」実務でよく迷う費目への回答
実務でよく聞かれる「未成工事支出金に入れていいか迷う費目」への回答を整理します。
| 費目 | 未成工事支出金に含める? | 理由・注意点 |
|---|---|---|
| 現場担当者(社員)の交通費 | ○ 含める | 直接工事に関わる経費として原価算入できる |
| 現場写真の印刷代・報告書作成費 | ○ 含める | 工事附随の経費として計上可能 |
| 本社の家賃・本社管理費 | △ 原則含めない | 一般管理費として別処理。ただし適正な配賦基準があれば一部算入も |
| 着工前の設計費・測量費 | ○ 含める | 工事原価の一部として積み上げ対象 |
| 不良工事の手直し費用 | ○ 含める | 瑕疵補修も工事原価に算入できる(ただし引渡し後の保証修理は除く) |
| 社長の役員報酬(現場兼務) | △ 要検討 | 現場作業割合を合理的に算出できる場合のみ一部算入。要税理士確認 |
【フロー図で解説】工事着工から完成引渡しまでのお金の動き
工事にかかるお金の流れを、全体像で見てみましょう。
【工事のお金の流れ イメージ図】
工事受注(請負契約)
↓
着手金受取 ────────────────────→ 未成工事受入金(負債)に計上
↓
材料費・外注費・労務費・経費が発生
↓
未成工事支出金(資産)に積み上げていく
↓ ↓
[決算をまたぐ] [工事完成・引渡し]
期末残高として ↓
貸借対照表に残す 完成工事原価(費用)へ振替
(翌期も積み上げ継続) 完成工事高(売上)を計上
完成工事未収入金(資産)に計上
未成工事受入金(負債)を取り崩し
この4つの勘定科目——未成工事受入金・未成工事支出金・完成工事原価・完成工事高——が連動して動くのが建設業会計の特徴です。「仕掛品だけ見ていればいい製造業」と異なり、建設業では着手金の管理も同時に必要になる点が実務上の注意点です。
フェーズ①:材料購入・外注発注時(未成工事支出金が増える)
工事が始まると、材料を仕入れたり、下請け業者に発注したりするたびに費用が発生します。このとき、費用科目(材料費・外注費など)を直接使うのではなく、「未成工事支出金」として資産に積み上げていくのが建設業会計の原則です。
なぜ費用にしないの?と思うかもしれません。答えは「まだ完成していない工事の費用を、完成前に費用として計上するのは正しくないから」です。仕掛品と全く同じ発想ですね。工事が完成して引渡しが済んで初めて、「この工事でいくらかかったか=完成工事原価」が確定し、費用として計上できます。
実務では: 請求書が届いたタイミングで「未成工事支出金 / 工事未払金」と仕訳し、工事ごとの補助科目(例:A邸塗装工事・外注費)で管理するのが一般的です。
フェーズ②:決算をまたぐとき(期末残高の確認)
期末時点でまだ引渡しが完了していない工事がある場合、その工事にかかった費用はそのまま未成工事支出金として貸借対照表(資産)に残します。
費用に振り替えるのは「工事が完成して引渡したとき」だけです。「7割完成しているから7割を費用にしよう」という処理は、原則として行いません(工事完成後に一括で費用計上するルールが中小建設業の標準です)。
決算前の確認作業として:
- 全工事の完成状況を現場担当者に確認する
- 未成工事支出金の残高と工事台帳(各工事の原価累計)を突合する
- 残高の差異がある場合は計上漏れ・二重計上がないかチェックする
フェーズ③:工事完成・引渡し時(完成工事原価への振替)
工事が完成して施主に引渡した時点で、積み上げてきた未成工事支出金を一括して「完成工事原価(費用)」へ振り替えます。同時に「完成工事高(売上)」を計上し、まだ代金を受け取っていない場合は「完成工事未収入金(資産)」も計上します。
工事が完成して引渡した後に発生する「代金の回収待ち」のお金(完成工事未収入金)については、

の記事で詳しく解説しています。
「工事完成」はいつ?引渡日・検収日・確認書受領日の判定基準
実務で最も迷いやすいのが「この工事、もう完成扱いしていいの?」という判断です。競合記事の多くが「完成したら振り替える」と書くだけで踏み込んでいないポイントを、ここで明確に解説します。
【工事完成の判定基準(優先順位順)】
- 引渡書類(引渡確認書)の施主署名・捺印日
最も確実な基準。施主が「工事の完成を確認した」とサインした日付が、会計上の「完成日」になります。 - 竣工検査(完了検査)合格通知日
公共工事や建築確認を要する工事では、行政機関の検査合格通知書の発行日を基準とするケースが多い。 - 引渡し日(実際に施主へキーなどを渡した日)
書類がない場合のバックアップ。引渡しの状況を社内記録・日報で残しておくことが重要。
現場でよく迷うケースへの回答:
| ケース | 対応 |
|---|---|
| 施主からまだOKサインをもらっていない(検収待ち) | 未成工事支出金のまま。完成扱いにしない |
| 工事は終わったが請求書を発行していない | 実質的に引渡しが完了していれば完成扱いにできる |
| 年度末に「もうすぐ完成」という工事がある | 引渡書類が翌期なら翌期に振替。「完成見込み」での振替は不可 |
| 施主の都合で引渡しが遅れている | 工事が実質完了していれば引渡し書類を取得してから振替 |
実務上の鉄則: 「引渡確認書」または「竣工検査合格通知」のどちらかの書類が手元にあることを確認してから、完成工事原価への振替仕訳を入れてください。書類なし・担当者の口頭確認だけで振り替えると、税務調査で「完成日の根拠」を問われたときに困ります。
仕訳の具体例(2,000万円工事を例に一覧で確認)
「A邸外壁塗装工事(請負金額2,200万円・消費税込)」を例に、着工から完成引渡しまでの仕訳を一覧で確認します。
工事概要
- 請負金額:2,200万円(税込)=本体2,000万円+消費税200万円
- 工事原価合計:1,500万円(材料費300万円、外注費1,000万円、労務費150万円、経費50万円)
- 着手金:660万円(税込)
- 工期:当期内で完成
材料費・外注費が発生したとき
工事着工後、材料を仕入れ、外注業者への支払いが発生するたびに未成工事支出金として積み上げます。
材料を仕入れたとき(材料費330万円・税込)
| 借方 | 金額 | 貸方 | 金額 |
|---|---|---|---|
| 未成工事支出金 | 300万円 | 工事未払金 | 330万円 |
| 仮払消費税等 | 30万円 |
外注業者に支払ったとき(外注費1,100万円・税込)
| 借方 | 金額 | 貸方 | 金額 |
|---|---|---|---|
| 未成工事支出金 | 1,000万円 | 工事未払金 | 1,100万円 |
| 仮払消費税等 | 100万円 |
自社社員の労務費・経費が発生したとき(200万円・消費税なし or 課税分は別途)
| 借方 | 金額 | 貸方 | 金額 |
|---|---|---|---|
| 未成工事支出金 | 200万円 | 未払費用・現金など | 200万円 |
ポイント: 仕掛品のときと同じく、費用科目(材料費・外注費)は使わず、「未成工事支出金」に直接集計します。補助科目に「A邸外壁塗装工事」を設定しておくと、工事別の原価が自動集計されます。
工事が完成・引渡しになったとき
引渡確認書を受領した日付で、以下の仕訳を入れます。
完成工事原価への振替(原価合計1,500万円)
| 借方 | 金額 | 貸方 | 金額 |
|---|---|---|---|
| 完成工事原価 | 1,500万円 | 未成工事支出金 | 1,500万円 |
完成工事高(売上)の計上と完成工事未収入金の計上
着手金660万円はすでに受け取っているため、残り1,540万円が未収になります。
| 借方 | 金額 | 貸方 | 金額 |
|---|---|---|---|
| 完成工事未収入金 | 1,540万円 | 完成工事高 | 2,000万円 |
| 未成工事受入金 | 600万円 | 仮受消費税等 | 200万円 |
| 仮受消費税等 | 60万円 |
補足: 着手金受取時に計上した未成工事受入金(前受金)は、完成引渡し時に取り崩します。「負債が減り、売上が立つ」という動きです。
決算期末に工事が完成していないとき
期末時点でA邸工事の引渡しが翌期にずれ込んだ場合、その時点で発生済みの費用はそのまま未成工事支出金(資産)として残します。特別な決算仕訳は基本的に不要です。
期末時点の未成工事支出金残高(発生済み費用の合計)
| 借方 | 金額 | 貸方 | 金額 |
|---|---|---|---|
| ——(仕訳なし。残高を確認するだけ)—— |
実務上のチェックポイント: 決算時に「未成工事支出金の残高=工事台帳の未完成工事の原価合計」と一致しているかを必ず確認してください。差異がある場合は計上漏れか二重計上の可能性があります。
消費税(仕入税額控除)はいつ?原則と例外の選択
未成工事支出金に関する消費税の処理は、少しレベルが上がります。しかし、ここを理解しておくと、税理士との打ち合わせでも話についていけるようになります。
根拠となる国税庁の情報:国税庁 No.6487 未成工事支出金の仕入税額控除の時期
原則処理:支払ったときに控除する
原則は「課税仕入れが確定した日(材料の引渡しを受けた日・役務の提供が完了した日)」に仕入税額控除を行う方法です。
- 材料を仕入れた月(引渡しを受けた日)→ その月の消費税申告で仕入税額控除
- 外注費が確定した月(役務の提供が完了した日)→ その月の消費税申告で仕入税額控除
- 工事の完成・引渡しは関係なく、課税仕入れが確定したタイミングごとに処理する
メリット: 工事が長期間にわたる場合、早期に仕入税額控除できるためキャッシュフローが有利。
デメリット: 工事が完成する前から消費税申告で控除するため、管理が細かくなる。
例外処理:引渡し完了時にまとめて控除する
例外として、「目的物(工事)の引渡しが完了した日」にまとめて仕入税額控除を行う方法も認められています。
- 工事が完成して引渡した期(または月)の消費税申告で、その工事にかかった全ての仕入分をまとめて控除
- 「継続適用」が条件(毎期・毎工事で選択を変えることはできない)
メリット: 工事完成まで消費税の計算を後回しにできるため、管理が簡便。
デメリット: 長期工事では控除が先送りになり、資金繰りに影響する場合がある。
実務上の重要ポイント: 例外処理を選択した場合は、以後も継続して同じ方法で処理する必要があります(継続適用の原則)。「今期は原則、来期は例外」という切り替えはできません。どちらを選ぶかは最初の申告時点で決まるため、顧問税理士と相談してから選択してください。
インボイス制度(2023年10月〜)との関係で注意すること
2023年10月1日のインボイス制度(適格請求書等保存方式)開始後、未成工事支出金の消費税処理では追加の注意点があります。
主な注意点:
- 原則処理を選択している場合:材料費・外注費を計上するたびに、相手方が発行する適格請求書(インボイス)を保存しておく必要があります。インボイスなしでは仕入税額控除ができません。
- 例外処理を選択している場合:引渡し時点でまとめて控除するときに、その工事期間中に受け取った全てのインボイスが揃っているかを確認してから申告します。工事期間が長い場合は、受領のたびに整理・保管するルールを作ることをおすすめします。
- 一人親方・免税事業者への外注費:インボイスを発行できない免税事業者(一人親方など)への外注費については、原則として仕入税額控除ができません。ただし経過措置として、令和5年10月〜令和8年9月は80%、令和8年10月〜令和11年9月は50%、令和11年10月以降は控除不可(0%)と段階的に縮小されます。外注先がインボイス登録しているか確認することが実務上の課題です。
- 出来高検収書のインボイス利用:元請業者が作成する「出来高検収書」が一定の要件を満たせば、適格請求書として使える場合があります。詳しくは顧問税理士に確認してください。
よくある質問(Q&A)
Q. 数日で終わる小規模工事も振り替えないといけないか?
A. 原則は振り替えが必要ですが、実務上は「期をまたがない短期工事は費用処理でもOK」と許容されるケースが多いです。
理由は、会計の「重要性の原則」です。金額や期間が小さい取引について、厳密な原価振替処理をしなくても、財務諸表全体への影響が軽微であれば簡便処理が認められます。
判断の目安(実務上の考え方):
- 工期が1ヶ月以内かつ期中に完成する小工事:費用(材料費・外注費)で直接計上してもほぼ問題なし
- 工期が複数月にわたる・または決算期をまたぐ工事:未成工事支出金として積み上げる
- 請負金額が小さくても決算期をまたぐ場合:未成工事支出金として残す
実務での注意点: 「小規模工事は費用直行でいい」という判断を社内ルールとして決めておき、税理士にも報告・了承を得ておくと安心です。ルールなしに担当者の感覚だけで判断すると、毎期ブレが生じます。
Q. 決算時に「7割完成した工事」はどう処理するか?
A. 原則として未成工事支出金のまま残します。「7割分を費用にする」という処理は行いません。
中小建設業が採用している「工事が終わったときに一括で費用計上するルール」(工事完成後に収益・費用を認識する方法)では、工事が100%完成して引渡したときに初めて費用(完成工事原価)と売上(完成工事高)を計上します。途中で「7割完成したから7割を費用計上」という処理は、このルールでは行いません。
理由は「まだ引渡していない工事の売上は立てられないのに、費用だけ先に出すと損益がおかしくなるから」です。仕掛品と同じ発想です。
実務での注意点: 大企業(上場企業など)では「工事の進捗に応じて段階的に売上・費用を計上する方法」が適用される場合がありますが、中小建設業では一般的に採用していません。この部分は顧問税理士の指示に従ってください。
Q. 「未成工事支出金」という科目名は今後なくなるか?
A. 中小建設業では当面なくなりません。安心して使い続けてください。
2021年4月以降、上場企業や大会社では「収益認識に関する会計基準(新収益認識基準)」の強制適用により、「未成工事支出金」が「契約資産」に、「未成工事受入金」が「契約負債」に変更されました。このニュースを見て不安になった方も多いと思います。
しかし、中小建設業(中小企業の会計に関する指針の適用対象)には、この新基準の強制適用はありません。「中小企業の会計に関する指針」では引き続き「未成工事支出金」の使用が認められており、実務上の影響はほとんどありません。
実務での注意点: 取引先や銀行から決算書の提出を求められた際に「未成工事支出金という科目があるのはなぜ?」と聞かれたら、「中小企業には旧来の建設業会計基準が適用されており、この科目名が正式です」と説明すれば問題ありません。
Q. 複数工事を同時に抱えているとき、工事別管理はどうするか?
A. 会計ソフトの「補助科目(補助元帳)」機能を使って、工事ごとに管理するのが標準的な方法です。
未成工事支出金という1つの勘定科目の下に、工事ごとの補助科目を設定します。たとえば:
- 未成工事支出金 / A邸外壁塗装工事
- 未成工事支出金 / B社倉庫新築工事
- 未成工事支出金 / C町内道路補修工事
これにより、「A邸工事にいくらかかっているか」が会計ソフト上で即座に確認できます。
ソフトごとの設定方法のポイント:
- 弥生建設・建設魂:工事ごとに補助科目コードを発行し、仕訳入力時に選択する
- freee・マネーフォワード(汎用型の会計ソフト):補助科目機能を使うか、摘要欄に「工事名+費目」を必ず記入して後から集計できるようにする
実務での注意点: 補助科目の設定は工事受注が決まった段階で、工事番号や工事名を決めてすぐに登録しておくのがおすすめです。工事が始まってから「あの工事の補助科目をまだ作っていない」と気づくと、過去の仕訳を全部修正する手間が生じます。現場担当者と連携して「工事受注確定→事務に通知→補助科目登録」というルーティンを作ると管理が格段に楽になります。
まとめ——「仕掛品と同じ発想、建設業の名前」で覚えれば大丈夫
この記事で解説したことを、最後に整理します。
| ポイント | まとめ |
|---|---|
| 何か | 建設業専用の仕掛品。工事完成前の費用を資産として積み上げるもの |
| いつ計上するか | 材料費・外注費・労務費・経費が発生したそのとき |
| いつ振り替えるか | 工事が完成して施主に引渡したとき(引渡確認書の日付が基準) |
| 何に振り替えるか | 完成工事原価(費用)へ振替、完成工事高(売上)を同時に計上 |
| 決算をまたぐ場合 | 未成工事支出金のまま貸借対照表に残す(費用計上しない) |
| 消費税 | 課税仕入れ確定日(原則)か引渡完了日(例外)かを選択。継続適用が必要 |
| 科目名は変わるか | 中小建設業では「未成工事支出金」を使い続けて問題なし |
「仕掛品と同じ発想で、建設業の名前」——この一言を軸に置くと、どんな場面で疑問が生じても「仕掛品ならどうするか」を起点に考えることができます。
建設業の勘定科目は独特で、最初は誰でも戸惑います。材料費・外注費のまま処理してきた時期があっても、恥ずかしいことではありません。大切なのは「今から正しい処理を覚えて、次の決算から使いこなせるようになること」です。
この記事を読んで、未成工事支出金への苦手意識が少し和らいだなら嬉しいです。
工事完成後に発生する「完成工事未収入金(売掛金に相当するもの)」の処理についても合わせて理解しておくと、建設業会計の全体像がよりクリアになります。「完成工事未収入金と売掛金の違い・仕訳・経審への影響」については、

で詳しく解説しています。建設業特有の勘定科目をセットで押さえることで、日々の実務への自信につながっていきます。
本記事は2026年4月時点の情報をもとに作成しています。法令・制度の改正により内容が変わる場合があります。個別の処理方法については、顧問税理士・建設業経理士にご確認ください。
